東京工科大学 応用生物学部 多田研究室

植物豆知識

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実になる話 (文責:東京工科大学応用生物学部 多田雄一)

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パイナップル
 パイナップルは熱帯アメリカ原産のパイナップル科アナナス属の植物です。 知っている人も多いと思いますが、パイナップルは実の上部についている冠芽(クラウン)という放射状の葉のついた部分を切り取って土に植えて育てると、下部から根が出て葉の部分は生長し、やがてパイナップルの花が咲いて実がつきます。パイナップル農園では株分けで増殖するのでこの方法は行いませんが、一般家庭では実行している人も結構いるようです。ただし、充分な加温施設を持っていないと沖縄地方のような暖かいところ以外では立派な実をつけさせることは困難なようです。

左図:形成された花序          右図:肥大した花托(実)

 私は、以前に職場の温室を利用できる状況にありましたので、そのようにしてパイナップルを育てて実を収穫しました。完熟させてから収穫するのですが、収穫前から辺りに甘い香りが広がります。食べるとこれが非常に美味でした。言葉ではうまく伝えられません。お店で購入して食べるパイナップルとは全くの別物です。完熟ですので収穫後はすぐに食べられます。普段食べているパイナップルよりも黄色味が強く、香りも強いですが、特に甘さが強く、ジューシーで酸味はほとんどありません。繊維もやわらかく、口中に硬い繊維かすが残ることもありません。さらに、パイナップル特有の後味の悪さも全くありません。職場の人たちにもおすそ分けしたところ大変好評でした。特筆すべきことは、完熟パイナップルでは、普通は捨ててしまう芯の部分までが甘くて繊維の硬さも気にならずにおいしく食べることができます。むしろ、普段食べているパイナップルの果実部分より美味しいくらいです。温室を利用できる環境の方は是非栽培してみてください。ホームセンターで販売しているような簡易温室でも育てられるようですが、その場合にはあまり大きな実は収穫できず、味のほうもお店で販売しているものと同程度であったという話を聞いたことがあります。冬でも20℃程度が保てて日当たりがよい条件を準備できれば美味しいパイナップルができること請け合いです。ただし、冠芽を触ればわかるように、パイナップルの葉は非常に硬くてとがっているので注意してください。危険を避けるために葉の先端はまめにハサミで切る必要があります。パイナップルの植物体は大きくなると直径が1m程度にはなりますので充分なスペースも必要です。

 皆さんはパイナップルの花を見たことがありますか。パイナップルの花は植えつけたクラウンが大きくなった後に、放射状に配置された葉の中心から小さなパイナップル形をした花序(写真参照)が顔を出し、やがて花茎が伸びて花序を押し上げます。小型のパイナップル型の花序には顔を出した段階で既に頭には新しいクラウンが着いています。花茎が伸びると花が咲きます。パイナップルの花は私が見た限りではすべて紫色でした。パイナップルの実の表面には、サッカーボールの模様のようにひし形の鱗のようなものが150個くらいついていますが、その一つ一つが実であり花の跡です。この模様がらせん状に並んでいることに気づいていましたか。パイナップルの花は集合花といって小さな花が軸を中心としてらせん状に並んでいて、下から順番に咲いていきます。花が終わると一つ一つの花のもとにある花托という部分が膨らんで食べる部分になりますが、これらが一つに融合して見慣れたパイナップルの形を形成しています。つまり、皆さんが一つだと思っているパイナップルの実はじつはたくさんの小さな実の集まりなのです。無理やりぶどうに例えるなら、一房分の丸いぶどうの実が軸ごとと全部融合して円筒の形になったようなものです。スナックパインという種類のパイナップルは融合の度合いが少し緩やかなため、一つ一つの実を手で剥がして食べることができます。さらに、パイナップルの実として私たちが食べている部分は先に述べたように花のもとにある花托という部分が膨んだものですので、正確には果実ではありません。他の果物とは食べている場所も異なっていることになります。ちなみに、イチゴも果実ではなく花托を食べています。

ブドウ
 ブドウはブドウ科ブドウ属の植物です。ブドウの果実は日本では主に皮をむいて食べる品種が主流ですが、外国では皮ごとと食べる品種が多いようです。ブドウは種のあるブドウと種無しブドウがあります。これらがどのように違うか知っていますか。

 一般に、種無しブドウは「ジベレリン」という植物ホルモンで処理して作ります。「えー!薬で種無しにしているの!」と思う人がいるかもしれませんが、もともとすべての植物が作り出す植物ホルモンを濃度を高めて処理するもので、毒性等の問題は知られていません。通常は2回処理を行います。開花前の処理で種無しになり、開花後にも処理することで粒が大きくなります。品種によって効果が異なるようですが、種無しブドウで一番有名な「デラウェア」という小粒の品種はジベレリンで2回処理することで、処理しない場合(種あり)よりも粒も大きくなりますが、「巨砲」では2回処理してもしない場合と同じ程度の大きさで1回処理だけでは通常よりも小粒のブドウになってしまいます。品種によってはジベレリンで処理すると房の形が悪くなったりするため種無しに向かない場合があるようです。ジベレリンは大きな園芸店では販売しているところもありますのでブドウの木が家にある方は試してみるのもよいでしょう。詳しい処理時期と処理濃度は添付の説明書を見てください。種無しブドウのデラウェアには時々、種がある粒が混じっていています。私は小さい頃に、この種を植えれば種無しブドウの木になると信じていました。今考えれば、単にジベレリンがかかり損なっただけだったということです。

 一方で、ジベレリン処理しなくても種無しのブドウが実る本当の「種無しブドウの木」も実在します。これらのブドウは「三倍体」という種類のために種のもとである花粉や卵細胞が正常にできないために種無しになります。われわれヒトも含めて一般的には「二倍体」の生物が多く、例えばヒトであれば細胞の中に21種類の染色体が二本ずつ組になって存在していて(すなわち42本の染色体をもつ)、精子や卵子になるときは細胞が分裂して各染色体が一本ずつどちらかの細胞に分配されます(すなわち21本の染色体をもつ)。そして精子と卵子(それぞれが21本の染色体をもつ)が受精して、もとの21組42本に戻ります。三倍体では各染色体が三本ずつあるために分裂するときにうまく分配できずに、正常な花粉(精子)や卵細胞ができません。その結果として種子ができないのです。それでは三倍体のブドウはどのようにしてできるのでしょうか。それは四倍体という染色体を4本ずつ組にして持っている品種と通常の二倍体の品種を交配して作ります。四倍体は、細胞分裂するときに分裂を阻害するような薬品を与えることで、細胞は一つのままで二細胞分の染色体(すなわち各染色体を2×2=4本ずつ)をもった細胞ができます。突然変異で四倍体になることもあります。四倍体もうまく同数の染色体に分かれない場合が多いのですが、うまく二本ずつ分かれた場合には正常な花粉や卵細胞を生じ、種子が得られます。このような四倍体の花粉(染色体は各2本ずつ)を正常な二倍体のめしべ(染色体は各1本ずつ)に授粉させてやれば三倍体の種子ができるのです。それでは種のできない三倍体のブドウはどのようにして増やすのでしょうか。ブドウは、挿し木や接木という方法で繁殖することができるので全く問題はありません。種無しブドウの品種には、例えば「ヒムロットシードレス」などがあります。名前に「シードレス(種無し)」と付いている品種は種無しなのでわかりやすいです。時々、園芸店の通信販売カタログなどで見かけますので興味ある方は購入して栽培してみてください。

 日本で見るブドウはつる性の植物ですが、欧州では背が低いコンパクトな形の樹形をしています。映画などでよく見かける風景を思い出してください。この理由は、もちろん、品種も違うので生育特性にも差はあります。しかし、日本の夏が多雨な気候のためにブドウがよく育つのに対して、雨の少ない欧州では水分不足で木が充分に生長できないためです。それでは日本のほうがよいブドウができるかといえばそうではありません。水分を抑えて育てたブドウの方が糖度が高くなります。最近よく見かけるようになったフルーツトマトと同じ原理です。また、高温多湿であることは病原菌にとっても好都合ですので、日本の方が病気にかかりやすくなります。品種によっては、葉や実に直接、雨が当たると傷んでしまうものがあります。特に欧州の品種は雨に弱く、有名な「マスカット」(正確には「マスカットオブアレキサンドリア」で日本でも栽培できるように改良した「ネオマスカット」は異なる品種です)という品種の場合には、日本では温室などの雨の当たらない施設内でないと育ちません。ブドウは本来は乾燥した気候に適応して進化してきたので、日本で見るブドウの木の姿の方が「異常」といえるかも知れません。 

スイカとメロン
 スイカとメロンは、ともにウリ科の一年生草本でキュウリ、カボチャ、ヘチマなどの仲間です。従って、本来は樹木に実るので果物ではなく野菜の仲間なのですが、一般には果物の扱いを受けており、そのため「果菜類」という分類をされています。どちらも蔓が延びて雌花と雄花が1株の植物内に別々に咲きます。雄花の花粉が雌花のめしべについて受粉に成功すると実がつきます。雌花の花弁の下にはスイカやメロンになる球形の部分がはじめからついており、受粉するとこの部分がどんどん肥大してお店で見るような大きさに育ちます。専門的には、この部分は子房と花托という組織が融合してできた偽果と呼ばれるものです。通常は子房というめしべの下にある卵細胞を含むふくらみが発達した部分が果実と呼ばれるので、スイカやメロンなどウリ科植物の果実では区別して偽果という分類になります。

 スイカの場合は、この球形の部分にあの特徴的な縞模様がはじめからついていて、果実が大きくなるにつれて一緒に模様も大きくなりますが、ネットメロンの場合には、小さいときにはネット(網目)はありません。メロンのネットは実が熟すころになって皮の表面が裂けてできる「ひび」です。それが規則正しくできるのでネットのように見えるのです。すなわち、われわれはひび割れたメロンをありがたがって食べているのです。しかも、ひびがきれいに密にできているほど高い値段がつきます。ヒトでいえば皺がきれいにできた老人をありがたがっているようなものでしょうか。皺がきれいにできたヒトを美しいと表現する時代が来ることもあるのでしょうか。ちなみにこのひびはどうしてできるのでしょう。実は外側の果皮と呼ばれる部分の細胞の分裂速度が内側の果肉の細胞の分裂速度より遅いいために皮の部分が裂けてしまうために生じます。裂けた部分の細胞はコルク化といってワインの栓のコルクに似た状態になります。ネットができないメロンや他のウリ科植物では細胞の分裂速度に差がないということです。 スイカにも種無しがあることをご存知でしょうか。種無しスイカは30年以上前に開発されましたが、あまり普及しなかったようです。今でも少量ながら生産されています。私は種無しスイカは食べやすくてよいと思うのですが、一説によると種のないスイカはスイカらしくなくて人気が出なかったということです。もちろん、値段や味にも少し問題があったかもしれませんが。種無しスイカの正体は、種無しブドウと同様にやはり三倍体です。種無しブドウの木は挿し木や接木という方法で増殖するので種はいらないのですが、スイカは毎年、種を播かなければなりません。しかし、種無しスイカに種はできません。それでは種無しスイカの種はどのようにつくるのでしょう。実は、毎年、四倍体と二倍体を交配してつくるです。三倍体では染色体の分配がうまくできないために正常な花粉や卵細胞ができないけれども四倍体はなんとか種ができることはブドウのところで説明しました。二倍体からは1セットの染色体、四倍体からは2セットの染色体をもった花粉や卵細胞ができますから、受精すると3セットの染色体をもつ三倍体ができるのです。そして、この三倍体の種子を育てれば種無しスイカの実がなります。従って、三倍体の種は毎年交配して作る必要があります。メロンも同じ原理で種無しメロンが作れるはずですが、私の知る限りではつくられていません。どうやら種無しメロンはあまり大きくならず、味もいま一つだったようです。 

イチゴ
 イチゴも草本ですので正確には果物ではなく野菜(果菜)に分類されますが、一般には果物としての扱いを受けています。ただし、スイカやメロンのように一年草ではなく、何年も生き続ける多年草です。イチゴは家庭菜園でも比較的ポピュラーなのでご存知の方も多いと思いますが、親株からランナーと呼ばれるつるのようなものを伸ばし、その先に新しい苗ができるので次年度はこれを育てます。このように、種ではなく親株から新しい個体を繁殖することを栄養繁殖といいます。ちなみに、イモ類やショウガ、球根をもつ植物なども栄養繁殖する植物です。

 私たちが食べているイチゴの赤い実の部分は、花托といって通常の果実の部分ではありません。花托を食べる果物は他にもパイナップルなどがあります。イチゴの種は赤い実の表面にたくさん着いているつぶつぶです。イチゴのめしべに花粉が付くと受精が起きて種子が発達します。このときに種子から植物ホルモンが放出され、その周りの花托が生長します。受粉が起きていない部分があるとその部分の種子が発達せず、植物ホルモンもつくられないので、その周りの花托は生長しません。その結果としてイチゴの果実はきれいな形になりません。よく家庭菜園でつくったイチゴの実がでこぼこしているのは受粉がうまくいかなかったために種ができていないからです。イチゴ農家では一般にミツバチを使って授粉させるのできれいな形のイチゴが収穫できます。私の家族でいちご狩りに行ったときに、下の子は授粉作業で活躍したと思われるミツバチが数匹残っていたために怖くてビニールハウスに入れず泣き出してしまったことがあります。

 売っているイチゴでも表面の種子を採って播けば、ちゃんと芽を出してイチゴの苗が育ちます。興味ある方は試してください。ただし、赤い果肉の部分をきれいに取ってから播かないと種が腐ってしまうことが多いので気をつけてください。実がなるまでには2~3年かかるでしょうが、自分で種から育てたイチゴとなれば味わいもひとしおでしょう。しかし、残念なことにその種から育てたイチゴに元のイチゴと同様の味を期待してはいけません。種から育てたイチゴは元のイチゴとは全くの別物です。一般にあまりよく理解されていないようですが、栄養繁殖する植物を種から育てた場合には元の植物とは全く違う性質を示します。違うだけならよいのですが、ほとんどの場合は元より品質などが悪くなります。イチゴを例にすると、大抵は実が小さく、酸味が強く、甘みが低くなります。何故そのようなことになるかというと、遺伝学的な説明が必要になります。簡単に説明しますと、現在私たちが食べているイチゴの品種は交配という作業をして、すなわち、あるイチゴの品種のめしべに別のイチゴ品種の花粉をかけて得られた種子を播き、その中から優良な個体を選んで育成されたものです。イチゴの細胞は各染色体を二本ずつ持っているわけですが、一本は花粉親(父親)、もう一本は卵細胞(母親)から譲り受けたものです。優良な個体とは言い換えると、この染色体(遺伝子)の組み合わせが良好なものを選んだということです。良好な組み合わせができる確率は数万分の1程度と言われています。そして、皆さんが播いたイチゴの種とは、この良好な組み合わせのイチゴについた種なわけですが、実は花粉、あるいは卵細胞ができるときに二本組みの染色体の間で遺伝子のシャッフルが起こるので新しくできた染色体は親の良好な染色体と同じではありません。すなわち、元のイチゴ品種の良好な染色体の組み合わせを崩してしまっている訳で、新しい組合わせが元より優れている確率はほとんどゼロと言っても過言ではありません。従って、種から育てたイチゴは、ほとんどの場合に元のイチゴよりおいしくないわけです。染色体の間で遺伝子のシャッフルが起こることはヒトを例にして考えるとわかりやすいと思います。皆さんは、ご両親から生まれたのでご両親の染色体を一本ずつもらっています。しかし、皆さんから作られる精子や卵子の染色体はご両親からもらった染色体のどちらかそのままではありません。組換えという現象が起こって、ご両親の染色体がシャッフルされて二種類の染色体が混ざり合った全く新しい染色体がそれぞれの卵子や精子ごとに作られ、それが受精して新しい組み合わせを持つ子供が誕生するのです。だから兄弟でも遺伝子の組み合わせが異なり、その結果として顔や性格が違うのです。

 最近のイチゴは昔と比べるとかなり実が大きくなりました。これは、いろいろな品種を交配して上で説明したような「優良な遺伝子(染色体)の組み合わせ」を選ぶ品種改良を積み重ねてきたからです。個人的には大きさの追求はそろそろ限界ではないかと思っていますが、リンゴくらいの大きさのイチゴができるとうれしいですね。

イチジク
 イチジクは漢字で「無花果」と書きます。この名前訳は、花が実の内側に着いていて見えないからです。イチジクの果実も花托という部分が肥大したもので、さらに花托の内壁に多数の花が着生しているので、花托と花を食べていることになります。私たちが食べている品種は花粉ができないのですが、イチジクはイチゴと違って授粉しなくても実は肥大します。日本ではほとんどが生食されますが外国では加工される場合が多いようです。

グレープフルーツ
 名前に「グレープ(ブドウ)」が付いていますが、ブドウとは関係ありません。形や味からわかるようにかんきつ類というミカンの仲間です。実がいくつかまとまって実るためにブドウの房に似ていることからこの名前が付いたとされています。最近のグレープフルーツは改良されてかなり甘くなりましたが、私が子供のころは苦くて酸っぱいのでよほど好きな人でないとそのままでは食べていなかったと思います。それでも、日本向けには特別に甘い品種が選ばれて輸出されていたと聞いています。また、最近の品種は酸味が無くなっただけでなくピンクや赤に近いものも出回っていることはご存知の通りです。トップに戻る

種無し果実(ビワ、ザクロ、ユズ、キンカン)
 種無しブドウと種無しスイカの話は前に書きましたが、他にも種無しの果物はあります。比較的最近になって品種改良でつくられたのが種無しビワです。千葉県の農業試験場でつくられました。ビワは実に占める種の割合が大きいので種無しにすることで可食部が大きくなり食べやすくなります。

 ビワよりももっと種が邪魔な果実にザクロがあります。ザクロの実は女性ホルモンのエストロゲンに似た物質が含まれているということで少し前に人気が出ましたが、種の数も果実に占める割合も大きいので非常に食べ難いという欠点があります。しかし、トルコで種無しザクロの木(品種名:アークデニズ)が見つかったそうです。実際に見たことはありませんが、国華園という種苗店の通信販売カタログでは、ゴマにように簡単に噛み砕ける程度の種があるそうですが食べるのにほとんど問題はないそうです。想像するに、キウイフルーツの種のような感じなのでしょうか。他の園芸カタログでも同様の品種を販売しているのを見たことがあります。ちなみにザクロの可食部は種皮が肥大した部分だそうです。

 ユズにも種無し品種があります。多田さんという方が品種改良されたそうで品種名は「多田錦」と言います。ただし、ユズの場合は果汁を絞って使う程度ですからそれほど種無しにする意味は大きいとはいえないかもしれません。キンカンにも種無しの品種があります。

クリ
 クリはこれまでに紹介した果物とは異なり、種子の部分を食べます。クリは「いが」に入っているのが特徴ですが、このトゲトゲが刺さると痛いので、いがのない品種も育成されています。そのようなクリは、写真でしか見たことがないので手で触っても本当に痛くないのかどうかはわかりませんが、トゲが退化しているような感じです。また、肝心の味の方がどうなのかも不明です。さらに、実際に農家で栽培した場合に病気や虫に強いかどうかもメジャーな品種として市場に出回るかどうかの重要なポイントです。家庭で栽培するのであれば面白い果樹かもしれません。

 また、最近では果樹試験場で渋皮が剥け易い品種「ポロタン」も育成されました。中国クリの渋皮が剥けやすい性質を日本のクリに持たせたそうです。もっとも、園芸カタログには「白栗(はくり)」という渋皮が剥けやすい品種が以前から掲載されており、どのように違うのかいまひとつよくわかりませんが。このように味や大きさの改良だけではなく、収穫しやすくしたり、食べやすくするような品種改良も行われています。

モモ
 モモには種が果肉から離れている「離核」と種と果肉がくっついている「粘核」の二種類があります。離核のモモは種の周りまできれいに食べられますが、粘核のモモは丸ごとかじると種の周りに繊維と果肉が絡み付いていて最後まできれいに食べることができません。皆さんもしつこくかじって歯の間に繊維が挟まって不快な思いをしたことが無いでしょうか。私はモモが大好物で、子供のころには大人になったら全部のモモを食べやすくするために離隔(当時はそういう専門用語は知りませんでしたが)の品種に改良してやろうと思っていました。大学の果樹学の講義の先生の話では離核と粘核の差は果肉と種の生長の速さの違いが原因ということでした。すなわち、粘核のモモは果肉と種が同じくらいの速さで生長するので離れないのですが、離核のモモでは種の生長の速さより果肉の生長の速さが早いので、実が肥大する途中で生育の遅い種が離れて隙間ができてしまうということです。ネットメロンのところでも果皮と呼ばれる部分の細胞の分裂速度が内側の果肉の細胞の分裂速度より遅いために皮の部分が裂けてしまい生じた割れ目がネットになることを説明しました。このように生長の速度の差が果実の重要な形質を決めている例は他にもあるかもしれません。ちなみに、モモの離核は早く成熟する品種(早生の品種)に多いようです。個人的には、食べやすさでは離核のモモを選びますが、味は粘核のモモの方が良いような気がします。離核のおいしいモモを食べてみたいです。

リンゴ
 有名な「ふじ」というリンゴの品種の名前の由来を知っていますか。時々、スパーマーケットや八百屋さんの店頭で「富士」という名前がつけられていますが、これは間違いです。「ふじ」は、青森県にある藤坂試験場というところで品種改良により作出されました。この名前の「藤」を採ってひらがなで名前をつけたそうです。ただし、日本一の富士山の名前にもかけているという話を聞いたこともあります。

 「ふじ」と「サンふじ」の違いを知っていますか。最近ではスーパーや八百屋では、ふじよりもサンふじを見かけることの方が多いですね。実は、リンゴの品種としては同一です。それでは何が違うかというと、ふじは袋掛けをして育てて、収穫直前に袋をとって太陽の光に当てることで赤く着色させますが、サンふじは袋掛けをしないで育てます。一般的には、太陽の光をいっぱいに浴びて育ったサンふじの方が糖度も高くおいしいようです。しかし、袋掛けをしたふじの方がきれいに赤く色づくそうで、貯蔵性もふじの方がよいそうです。サンふじは年明けごろには実がスカスカして(柔らかくなって)おいしくなくなりますが、ふじは比較的長く貯蔵できます。もちろん、貯蔵方法にもよりますが、一般的にサンふじが市場に出回らなくなる春先になっても、ふじは販売されています。同じリンゴの「つがる」と「サンつがる」も同様の関係です。

 最近では誤解が減ったようですが、リンゴの密は砂糖液あるいは蜂蜜を注射していると勘違いしている人が結構いるようです。実際はソルビトールという砂糖よりも甘みの少ない糖の仲間が自然につくられて集積しているものです。

イモ類
 ご存知のようにイモにはジャガイモ、サツマイモ、サトイモなどがあります。一般には根を食べているという意識が強いようですが、実際にはサツマイモは根ですが、ジャガイモは茎の一部です。従って、サツマイモはイモの基部にあたる部分からしか芽が出ませんが、ジャガイモはくぼみのある部分であればどこからでも芽が出ます。つまり、多くの植物が根の途中から芽が出ないようにサツマイモもイモの途中からは芽を出しませんが、ジャガイモは茎ですので芋からたくさんわき芽がでるわけです。小学校の教科書では、ジャガイモが土から出て太陽に当たっていると緑色になる(葉緑体ができる)こともイモが茎である証拠としているようです。しかし、青首大根のように他の植物でも根が太陽に当たると緑になる場合がありますので、これは適切な理由ではないかもしれません。

スイカ2
 夏に、研究室の学生が帰省土産にスイカを買ってきてくれました。そのスイカは、とても甘くてみんなでおいしく食べました。そのときに学生が「このスイカの種を播いたら、また美味しいスイカが食べられるね。」と言っていました。そこで私は、「それは甘いな、この種を播いても美味しいスイカはできないよ。」と言いました。学生たちは、「どうしてですか?」と聞くので、私は「ヘテロだからだよ。」と答えました。しかし、学生たちは誰もピンと来ないようでしたので、「遺伝学の問題だよ。君たちもお父さんやお母さんと全く同じではないだろう。」と説明しましたが、そのあと話がうやむやになってしまい充分な説明はできませんでした。以前にも生物学を習っていない人と話しをしたときに同様の状況になりましたし、生物を学んだ人でもある植物の種を播けば親と全く同じ性質の子供ができると信じていることが多いようです。そこで、今回は「雑種」の話をします。

 「雑種」というと一般の人は、「血統のはっきりしていないその辺によくいる犬」を思い浮かべるでしょうか。本来、雑種とは「異なる系統の個体を交雑した子」を指します。この場合に、その雑種は父親からきた染色体(遺伝子)と母親から来た染色体(遺伝子)の2種類を持っています。一方で、遺伝的に固定、すなわちを父親も母親も同じ染色体(遺伝子)を持っている場合は(これをホモ接合と呼びます)、当然ながら子供も同じ遺伝子を持つことになり、このような固体や系統を「純系」と呼びます。植物でも「雑種」と「純系」があります。例えば、イネの品種は純系ですから「コシヒカリ」の種をとって翌年に播けば前の年と全く同じように「コシヒカリ」ができます。コムギやダイズも同様です。しかし、トウモロコシは、最近ではほとんどの品種は「雑種」(これをヘテロ接合と呼びます)です。この場合は、種を採って翌年に播いても前の年と同じ美味しいものはできません。また、一般の園芸店で売られている草花の場合も、自分で採取した種からは同じようなきれいで大きい花は望めません。前の年のこぼれ種から芽が出て花が咲いたが、肥料をやっても立派にならなかったという経験はないでしょうか。これらの植物(品種)の種は、「一代雑種」あるいは「F1」などと呼ばれているものです。農家の方はご存知でしょうが、これらは異なる純系の両親を交配して得られた種子で、種子袋に「○○交配」とか「F1」という表示があります。

  生物学を習わなかった人や苦手だった人のためにもう少し説明します。生物の染色体は「2本で1組」が基本です。2本のうちの1本は母親から、もう1本は父親から受け継がれます。イネの場合は自家受粉といって一つの植物体でめしべとおしべの両方があるので、父親も母親も同じ染色体をもつことになり、子供(種)は親と全く同じ2本のホモ染色体を受け継ぐことになります。そして、その次の世代でも同じことが言えるので、自家受粉をする植物の性質は代々同じになります。しかし、一代雑種では両親が異なりますから、商品として売っている種(あるいはそれらが生長した植物)は異なる2本のヘテロ染色体を持っています。先に述べたスイカの例では、われわれが食べるスイカの実がこれにあたります。この実に入っている種子は、異なる2本の染色体が交じり合って作られる無数の新しい染色体のうちの2本が無作為に選ばれて受け継がれたものですから親である「美味しいスイカ」とは全く異なっています。しかし、前年のこぼれ種から育ったスイカの実を食べたことが何度かありますが、それほど実は大きくはなりませんでしたが、まずくて食べられないようなことはなく、適度な甘さがありました。商品として売るのではなく、家庭で楽しむには十分かもしれません。

トウモロコシ
 トウモロコシの先から出ている茶色の毛は何でしょう?あれは「めしべ」です。元は黄色だったのですが、収穫期には老化して茶色く変色するので毛のように見えます。めしべはそれぞれがひとつの種子(われわれが食べる黄色い粒)の上部につながっています。したがって、実の数と「ひげ」の数は同じです。トウモロコシの雄花は植物体の一番上についている部分で、ここから花粉が落ちて葉の付け根の辺りから現れる雌花の先から出ているひげ(めしべ)につくと受粉して実が大きくなります。うまく受粉できないと実が大きくならないのでその部分が「歯欠け」状態になってしまいます。しかし、トウモロコシでは雄花と雌花が同時に咲きません。はじめに雄花が咲いて2~3日してから雌花のひげ(めしべ)が現れます。ひげが出揃うころには雄花はすでに花粉をあまり出しません。そのため、トウモロコシを1本、あるいは数本程度植えておいても歯欠けのトウモロコシばかりになってしまいます。畑では多数のトウモロコシを植えていて、それらの花の咲く日が多少ずれるため、うまいことすべてのめしべに花粉がかかります。

 なぜおしべとめしべで花の咲く日がずれるのでしょうか。確実に子孫を残す(種をつける)ためには同じ日に花が咲いたほうが有利なはずです。これには理由があります。トウモロコシは他家受粉性といって自分の花粉ではなく他の個体の花粉で種子をつける性質が強いのですが、その方が丈夫で生存競争に強い子孫を残せるからです。一般に生物には自殖弱勢という現象が知られており、近縁の個体間の子供は弱くなることが多いのです。人でも近親婚が禁止される理由はそのためです。逆に雑種強勢といって遠縁の個体を交配すると両親よりも収量が多い、生長がはやい、植物体や実が大きいなどの有利な形質があらわれることがあります。雑種強勢については他の植物のところでも説明したように、植物の品種改良に広く利用されており、日本の多くの野菜や花はこの仕組みを利用して種子が作られています。トウモロコシは、自殖弱勢を避けて雑種強勢を得るために自分の花粉がめしべにかからないようにわざと雄花と雌花の咲く時期をずらしているわけです。もっとも、このずれが大きすぎると受粉の機会が減って、かえって子孫を残せなくなる可能性が高くなるために微妙なずれ加減を維持しているといえます。アブラナ科の植物やナシなどは、自家不和合性という自分の花粉を受粉しないような他の仕組みをもっています。

 トウモロコシの野生種は、豆のような緑の粒が数個実っているような非常に小さな穂をつけます。授業で学生にこの写真をみせて「これは何という作物の野生種でしょう」というクイズを出すと、正解する人はほとんどいません。マメとかアスパラガスという答えが多いです。中には、ムギと答える人もいて、同じイネ科という点ではいい線ですが、正解には遠いです。トウモロコシの野生種である「テオシンテ」という植物は、そのあたりに育っている雑草のように細い茎(枝分かれ)をたくさんつくるブッシュ型(ブッシュは「根元から多くの枝が出ている低木」の意味)でした。あるとき、この植物の枝分かれをコントロールする遺伝子に何らかの原因で突然変異が起きて、枝分かれしなくなったために太い一本の稈(茎)をもつトウモロコシ(の祖先)が誕生しました。その結果、実が着く穂も太くなり、ムギのような細い穂から今のトウモロコシのような太い穂になり、その周りに穀粒(実)がぎっしり着くようになりました。実際には、枝分かれの遺伝子以外に他のいくつかの遺伝子にも突然変異が起き、人類がそれらの突然変異を集めた集大成として今我々が食べているようなトウモロコシができています。この例をみると、人類による品種改良(突然変異の利用)のすごさがよく理解できます。ちなみに、イネやムギでも枝分かれ遺伝子の突然変異はみつかっていますが、残念ながらトウモロコシのように極端に太い植物にはなりませんので、トウモロコシは特殊なのかもしれません。

マングローブ
 マングローブは、海水と真水が混じっている潮間帯あるいは汽水域に生育する樹木の総称で「マングローブ」という名前の木はありません。マングローブの中でも有名なものは胎生種子という棒のような種子をつける種類です。テレビなどでマングローブの植林をしている光景を写していると、枝のようなものを海に挿しています。多くの場合、これはマングローブの苗ではなく、胎生種子です。根が出た苗はちゃんと土を掘って植えてやらないと、単に土に挿しただけでは根が折れてしまいます。そのため、胎生種子のほうが扱いやすいのです。ただし、胎生種子はあまり保存ができません。常温で湿度が高い状態で横にしておけば一月ぐらいは保存できますが、それでも少しは芽や根が活動を始めてしまいます。冷蔵庫に入れると発芽は抑えられますが、一月も置くと芽が腐ってしまいます。日本では沖縄の西表島などにヤエヤマヒルギ、オヒルギ、メヒルギなどの胎生種子をつけるマングローブが生育しています。最近はエコツアーなどと称してこれらのマングローブが生い茂る川を船でクルーズする旅行が人気のようです。

 胎生種子とは木の上で胚軸と呼ばれる部分が生長した種子です。わかりやすく例えるなら、もやしの双葉と根が伸びないで胴体にあたる部分だけ(つまり食べる部分)が木に付いたまま伸長したものというところでしょうか。この胎生種子は、成熟すると木の実が落ちるのと同じように木から落ちます。その時にうまく着地に成功して下の土中に挿さると下側の先端から根が伸び、上側の先端からは葉が伸びてその場所に定着します。うまく刺さらなかった種子は潮に運ばれて、流れ着いた先でうまく固定されるとその場所に根付きます。実際に沖縄の島のマングローブの根元を見てみると運良く地面に刺さって生育していると思われる苗木を見ることができます。ヤエヤマヒルギは胎生種子が細いので実際に親木の根元の土に自然と刺さったと考えられる光景をよく目にしますが、オヒルギは比較的種子が太いので刺さり難いのかあまり見かけません。もっとも、人が容易に立ち入ることができるような場所では規則的に多数の胎生種子が刺さっていることがあり、人が挿している場合も多いと思われます。

 オヒルギの胎生種子は成熟すると20cm弱にまで生長しますが、成熟していない種子でも木から採り土に挿すと発芽します。5cm程度になっていれば問題なく発芽しますが、成熟種子に比べると初期生長は悪いようです。これは種子中の養分の蓄積が少ないためと考えられます。最近、約30cmもあるオヒルギの胎生種子を西表島で見つけました。ヤエヤマヒルギであれば普通の長さですが、オヒルギではこのように長い胎生種子はこれまで見たことがありませんでした。同じ木の他の種子は20cm以下です。しかし、琉球大学の馬場先生のお話では西表島にも長い種子をつけるオヒルギが分布している地域もあるそうですので、そこの木の花粉を着けた昆虫がその木の花に授粉したのかもしれません。長い種子をつけるオヒルギはフィリピンなどに多く自生しているそうです。種子は長いものと短いものでどちらが繁殖に適しているのでしょうか。養分の貯蔵量や深い水深の場所での発芽を考えると長い方が有利なような気もしますが、様々な環境条件の場所での生育を考えると一概にはどちらが有利とは言えないかもしれません。この長い種子を育てるとどんな木に生長するのか楽しみです。一般に樹木は種子を播いて育てた場合には、親木とは性質が異なります。この長い胎生種子から育つオヒルギはより生長量が大きい優れた性質を持っている可能性もあります。

おコメの名前
 「コシヒカリ」のようなイネの品種名は種苗法という法律にもとづいて登録されたものですが、細かいルールがあります。「コシヒカリ」と「あきたこまち」の名前の違いを知っていますか。「コシヒカリ」はカタカナで「あきたこまち」はひらがなです。「なんだ、そんな違いか」と思うかもしれませんが、実は、国の研究機関が開発した品種(または国の研究費で開発した品種)はカタカナ、都道府県の研究機関が開発した品種はひらがな、または漢字の名前にするというルールがありました。「コシヒカリ」は新潟県農業試験場で交配した種の子孫が福井県農業試験場に送られて育成された品種ですが、農林水産省指定水稲新品種育成試験地であったためにカタカナで5文字以内の名前になっています。「あきたこまち」は秋田県の農業試験場でつくられた品種のためひらがなです。このルールを知っていれば「ササニシキ」、「きらら397」や「はえぬき」という品種名を見ただけで国と都道府県のどちらでつくられたかわかりますね。ただし、最近では名前の多様化や民間企業もイネの品種を開発したりしていますのでこのルールは崩れてきているようです。

接木(接ぎ木)
 接木(接ぎ木)は昔から有用な植物を増殖する方法として利用されてきました。単純に増殖するなら、挿し木の方が効率的ですが、接木した植物はその後の生育が早く、木の成熟が早い(すなわち早く実をつける)などの利点があります。さらに、台木として病気に強い植物を利用すれば、それに接いだ穂木(本来育てたい植物)も病気に強くなるなどの利点もあります。果樹の接木の場合は、病気に強い台木のほかに、樹高を低くして作業をし易くするための「矮性台木」などが利用されます。背が低い(成長が悪いのではなく、節間(葉と葉の間隔)が短い)植物を台木にすると、穂木も背が低くなるのです。リンゴなどは通常は大木になりますが、矮性台木を利用すると樹高は背丈程度にまとまります。矮性台木としては、それ専用に育成・選抜された背が高くならないリンゴの仲間などが利用されます。また、木本植物だけでなく、スイカ、キュウリ、カボチャなどの草本植物でも、接木は成長を早めたり、病気に強くするために利用されています。園芸店に行くと、双葉が4枚(2対)ある苗が売っているときがありますが、それが接木苗です。台木の本葉を取り除いて、双葉の真ん中に切り込みを入れて、双葉付きの穂木を差し込んでクリップなどで固定すると、数日で癒着します。

 特に果樹では接木苗が一般的です。「リンゴ」のところで説明した「ふじ」は元々は1本しかありませんでしたが、接木(と挿し木)によって増殖したために、今では日本中に多数の「ふじ」の木があります。この様に場合、種から増殖すると「ふじ」ではないリンゴになってしまいます。それは、「スイカ2」で説明した一代雑種と同じように果樹の染色体はヘテロ接合状態のため、その種から育つ子植物は親植物とは異なる遺伝子組成の植物になるためです。栄養繁殖である接木によって増殖した「ふじ」の例のように、同じ遺伝子情報をもつ個体(双子や細胞を培養してつくった別の個体なども同じ)をクローンと呼びますが、これはもともと小枝を指すギリシャ語の「クロン」という単語に由来するそうです。「クローン人間」などの動物でよく耳にするクローンという言葉の由来は、実は植物の挿し木だったわけです。植物の小枝を挿し木や接木することで容易に個体数を増やせるということは、かなり昔から知られていたということですね。リンゴ以外もほとんどの果樹は挿し木や接木で増殖したクローンです。

 木本植物の場合、台木と穂木の太さが同じくらいであれば台木の真ん中に切れ目を入れて台木を差し込みますあが、両者の太さが極端に違う場合は接木の仕方に注意が必要です。台木と穂木の形成層という幹の比較的外側の活発に増殖している細胞どうしが密着させる必要があります。そのため、太い台木の端の方に穂木を差し込むので、見た目には偏った感じになり違和感があります。

 これまで接木は近縁な植物(同じ科)間でしかできないと考えられてきましたが、最近になって名古屋大学の野田口先生らのグループは、ベンサミアナタバコをはじめとするタバコ属植物が遠縁の植物とでも接木できることを発見しました。彼らは、タバコ属植物の細胞から分泌されるβ-1,4-グルカナーゼという酵素が接木の接合面で組織の癒合をもたらすことを突き止めました。この技術を使うと、タバコ属植物を間に挟むことで全く異なる科の植物でも接木が可能になります。例えば、キクを台木として中間にタバコを接木して、その上にさらにトマトを接木して実らせることができました。原理的にはどのような組み合わせも可能になります。1980年代にジャガイモとトマトを細胞融合して「ポマト」という植物がつくられました。一般に、細胞融合で作った植物は「いいとこどり」ではなく「悪いとこどり」になってしまうので、ポマトはイモも実も食用にはなりませんでしたが、ジャガイモとトマトの接木植物であればイモもトマトの実も通常食べているものと同じものができます。もちろん、光合成能力が強化されていないので、収量はイモも実も通常のジャガイモやトマトと比べて十分ではない可能性が高いと思います。しかし、この技術は2種類の収穫物を同時に得るためというよりは、接木ができないために増殖が難しい植物を増殖したり(同じ種でも接木ができない、あるいは困難な植物は結構あります)、複数の有用形質(例えば、耐病性と矮性など)をもつ接木苗の生産などに有用だと思われます。



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